壺齋散人の 美術批評
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呪われた王(Roi maudit):ルオーの宗教画





「呪われた王(Roi maudit)」と呼ばれるこの絵は、キリストの聖顔を彷彿させる。キリストのかわりに、王冠を被った王の顔が描かれているが、その表情はキリストのそれに似ていなくはない。黒くて大きな瞳、そして長い鼻、口髭の影にかくれた小さな口などは、先に紹介したキリストの「聖顔」の絵とよく似ている。

この絵の解釈はさまざまになされてきたが、ルオー自身が多くを語っていないので、決定的な説はない。有力なのは、祝福された王としてではなく、呪われた王としてのキリストを描いたという説だ。この説によると、キリストはユダヤ人の罪障を一人で背負うことで、ユダヤ人たちに悔い改めるよう求めているということになる。

罪障を背負った王のことは、旧約聖書のイザヤ書に出てくる。その話をキリストに結びつけて、呪われた王のイメージをルオーは紡ぎ出したのではないか、というのである。そう考えると、この絵の中の王は、キリストとダブって見えてくる。

画面の中心に顔を大きく描き、その周囲を額縁のようなかたちでくまどるのは、ルオーのよくやる手法だ。この絵の場合には、一番外側の本物の額縁まで絵の一部のように取り入れている。本物の額縁と中心の絵との間の部分は、描かれた額縁である。それもいかにも本物のように見える。

(1952年ころ 板に油彩 38.5×27㎝ 大原美術館)




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