壺齋散人の 美術批評
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学プロフィールBBS


アニエールの水浴:スーラの最初の大作





スーラは1884年、24歳にして最初の大作「アニエールの水浴」を制作し、その年の官展に出品したが落選した。そこで同年春に催された第一回アンデパンダン展に持ち込んだところ、大いに注目された。自然主義からの移行を示す画期的な作品として評価されたのである。

構図の上では、画面を斜めに横切る線で二分し、水平線と垂直線を巧みに組み合わせることで変化を演出している。一方人物の方は、どの人もほとんど動きを感じさせない。そんなわけで、大勢の人物が描かれているにかかわらず、全体として静かな印象を与える。印象派の絵が、揺らめくような動きを追求していたのとは大きな違いである。

色彩的には、彩度の高い色を用いて、全体として明るい画面になっている。印象派の画家たちも彩度の高い絵を描いたが、スーラの絵は一段と高い彩度になっている。なるべく原色に近い色を用いているためである。

アニエールは、パリ市街の西部で、セーヌがブローニュの森を越えたあたりの左岸に広がる地域である。右岸のクリニー地区ともども労働者が多く住む地域だ。この絵に描かれた人物たちはそうした労働者たちだと思われる。それまでの絵には、労働者を描いたものはほとんどなかった。スーラは、意識的に労働者を描いた最初の画家である。

用いられている画法はバレイエ画法というものだ。これは平ブラシの先で掃くようにして絵具を塗り付ける方法である。この時点でのスーラは、まだ点描法を用いるには至っていない。



これは水中の少年の部分を拡大したもの。帽子や水面の一部に斑点が見えるが、これはまだ点描と言うには程遠い。なお、スーラはこの絵の制作に先立って、おびただしい数の習作を残している。彼の意気込みが伝わってくる。

(1884年 キャンバスに油彩 201×300㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)




HOMEスーラ 次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2018
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである