壺齋散人の 美術批評 |
HOME|ブログ本館|東京を描く|水彩画|ブレイク詩集|フランス文学|西洋哲学|プロフィール|BBS |
化粧する若い女:スーラの点描画 |
「化粧する若い女」と題したこの絵は、スーラ晩年の愛人マドレーヌ・ノブロックを描いたものだ。彼女はスーラのモデルをしていたが、そのうちにスーラの子どもを産んだ。スーラが死んだときには、彼の二人目の子どもを妊娠していたが、その子は死産となった。スーラに死なれた彼女は頼るべき人もいなかったが、さいわいにスーラの母親に認められて、スーラの遺品の一部を相続できた。それを元手に帽子のショップを開いたりしたが、彼女はどうも世渡りが下手だったらしく、店は倒産して貧困の生涯を送ったようだ。 マドレーヌ自身はこれを、自分の肖像画と言っていたが、肖像画というよりは、風俗画を思わせる。つまりスーラは、愛人の肖像を画いたのではなく、風俗画を飾るモデルとして愛人のイメージを用いたにすぎないと言える。スーラはこの女性を深くは愛していなかったと見える。深く愛していれば、もうしこし心のこもった描き方をしただろう。 肥り気味の女が、華奢な作りのテーブルと鏡台を前にして化粧をしている。はち切れそうな女の胸が、ほっそりした鏡の枠と鋭い対象をなす。そこには、画家の意地の悪い視線を感じさせるものがある。 背後の壁には、扉付きの鏡が掛かっており、その中に画かれている花瓶は、鏡に映った手前の品物を暗示している。普通に考えれば、この角度なら画家が映っていてしかるべきなのだが、スーラはあえて自分の像ではなく、花瓶を描き入れたわけである。 (1890年 カンバスに油彩 95.5×79.5cm ロンドン、コートールド美術研究所) |
|
HOME | スーラ | 次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2018 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |