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東方三博士の礼拝:ベラスケスの世界




ベラスケスの生きた時代には宗教画が絵画の主流だったので、ベラスケスもまた、多くはないものの、宗教画を手掛けている。「東方三博士の礼拝」と題したこの絵は、彼の初期の宗教画を代表するものである。当時宗教画として人気のあったモチーフを題材にとったものだが、そこにはベラスケスの個人的な思いも込められている。かれは、この絵の中に自分の家族のイメージを込めたのだ。

ベラスケスは1918年4月に師パチェーコの娘フアナと結婚し、翌年5月には娘フランシスカが生まれた。この絵はその年に、自分の家族をモデルにして描いたものだ。つまり娘のフランシスカをキリストに見立て、それを抱く妻をマリアに、またマリアの前に跪いて喜びをあらわす男に自分を重ねているのである。マリアの背後の老人はベラスケスの父親、ベラスケスの背後の老人はパチェーコだとされている。

そうした事情も働いて、この絵は宗教画でありながら、あまり宗教的な厳粛さを感じさせず、かえって世俗的な雰囲気を感じさせる。ベラスケスは、後に神話や歴史に題材をとった絵も描くようになるが、そのいずれにおいても、同時代の風俗を濃厚に感じさせるような描き方をしており、世俗的な題材をリアルに描くという画風に徹した。

画面左上を光源に設定し、そこからさした一様な光線を人物にあてて、しかも暗い背景から劇的に浮かび上がるように配慮しているところは、カラヴァッジオの強い影響を指摘できる。

(1919年 カンバスに油彩 203×125㎝ マドリード、プラド美術館)




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