壺齋散人の 美術批評
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鏡のヴィーナス:ベラスケスの世界




「裸のヴィーナス」は、現存するベラスケス唯一の女性裸体画である。制作時については諸説あるが、第二次イタリア滞在時とするのが説得的だ。というのも、女性の裸体画は、当時のスペインではタブーになっていて、大っぴらに描くことはできなかった。それに対してイタリアでは、女性の裸体画は絵画の主要なモチーフの一つになっていたのである。そんなイタリアの動向に刺激されて、ベラスケスがイタリア滞在中にこのエロティックな裸体画を描いたというのは、非常にありうることである。なお、ベラスケスはこの滞在中に、私生児を設けている。イタリアの開放的な雰囲気に流されたのであろう。

この絵は、多くの人々の手に渡った。カルピオ侯爵、アルバ公爵、宰相ゴドイの手を経て、イギリスにも渡った。イギリスでは長らくヨークシャーのロックヴィル・ホールにあったので、ロックヴィルのヴィーナスとも呼ばれている。

裸の女性が背中を向けて横たわり、キューピッドの支え持つ鏡に自分の顔を写している。羽の生えた子どもがキューピッドであることから、女性がヴィーナスだと知れるのであるが、当初はヴィーナスの絵とは思われず、単なる裸体画として知られていたようだ。この絵は、さる女性によって、背中から尻にかけての部分を、ナイフで切り裂かれたことがあった。

スペインの裸体画といえば、ゴヤの「裸のマハ」が有名だが、ゴヤはベラスケスのこの絵に触発されて、自分のマハを描いたと言われている。

(1951年頃 カンバスに油彩 122.5×177.0㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)





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