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フェリペ四世胸像:ベラスケスの世界




フェリペ四世のこの胸像画は、ベラスケスによるフェリペ四世の最期の肖像画である。フェリペ四世は、「フラガのフェリペ四世」を描かせたのを最後に、九年間もベラスケスに自分の肖像画を描かせなかった。あまりにもリアルな作風が、王としての威厳をそこなって見せていると、不満を感じたからだともいわれている。しかし、ベラスケスがその後も、王の最側近として仕えたことからすれば、王がベラスケスに強い不満を持ったとは考えにくい。

王妃マリアナ・デ・アウストリアの出産直後の肖像画より、一年かそこら後に描かれたと思われる。それにしては、妃が子どもを生んだことを素直に喜んでいる様子が伝わってこない。かえって憂鬱そうな雰囲気が伝わって来る。その憂鬱には理由があった。王妃と皇太子を相次いで失ったばかりか、統治の面でも憂鬱の種に尽きなかった。スペインは、かつての世界帝国の栄光から転落しつつあった。そうした内外の事情が、王を憂鬱にさせたことは十分に考えられる。

それにしても、まだ五十になっていないというのに、すっかり老けたイメージである。しかも、王の公式肖像画といいながら、王らしい威厳を感じさせる小道具は一切省いている。同じ頃に、ウィーンから呼び寄せた画家に描かせた肖像画が伝わっているが、それは王らしい威厳さを十分に感じさせるものになっている。

(1653年頃 カンバスに油彩 69×56㎝ マドリード、プラド美術館)




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