壺齋散人の 美術批評
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ラス・メニーナス:ベラスケスの世界




「ラス・メニーナス」と題したこの絵はベラスケスの最高傑作というべき作品だ。五歳になったマルガリータ王女が、沢山の従者に取り囲まれて、ポーズをとっているように見える。だがよく見ると、キャンバスの前でポーズをとっているのは、彼女ではなく、画面の手前にいる人だとわかる。彼女を含めて、絵の中の他の登場人物も、画面にはいない人たちを見ているのである。

その画面の手前にいる人は、背景の壁にかかっている鏡にうっすらと姿が映っている。二人の人物が認められるが、かれらこそがこの絵の本当の主人公なのである。かれらは、国王フェリペ四世と、王妃マリアナである。この二人に向って、画家ベラスケスが、後ろ向きのキャンバスを前にして、絵の構想を練り、王女はじめ他の人物たちは、思い思いに国王夫妻のほうに注意を払っているのである。

タイトルにあるメニーナとは、もともとはポルトガル語で少女を意味したが、スペイン語では侍女という意味に転化した。この絵には、マルガリータと彼女の侍女たちが出て来るのである。その侍女の内訳はだいたいわかっている。マルガリータの左側で手を差し伸べているのはドーニャ・マリア・アウグスティーニャ・デ・サルミエント、王女のすぐ右側はドーニャ・イサベラ・ベラスコ、その右側は矮人マリア・バルボラ、画面右端で犬を踏んでいるのは矮人ニコラシート・ペルトゥサートといった具合だ。

この不思議な絵を、哲学者のミシェル・フーコーが「言葉と物」の第一章でとりあげ、「われわれは絵を見つめ、絵の中の画家は画家でわれわれを凝視する。それこそ、ひとつの対決、相手をとらえあう眼、交差しながら重なり合う真直ぐな視線、そのようなもの以外の何物でもあるまい」と言い、「言語と絵画との関係は無限なものである」と結論付けたことは有名である。



これは、マルガリータと彼女を取り巻く侍女たちを拡大したもの。マルガリータは、ほぼ同じ頃に描かれた彼女の肖像画「白いドレスのマルガリータ王女」とほとんど同じ格好をしている。

(1656年 カンバスに油彩 318×276㎝ マドリード、プラダ美術館)




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