壺齋散人の 美術批評
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二人の紳士と女:フェルメールの女性たち





「二人の紳士と女」は、「士官と笑う娘」、「紳士とワインを飲む女」同様ワインによる女性の誘惑をテーマにしている。この絵は特に後者の「紳士」との連続性を強く思わせる。四葉のクローバー模様をあしらった窓、市松模様の床のカーペットなどから、同じ部屋を背景にしていることがわかるし、男が女にワインを飲ませようとしている構図も共通している。そんなところからこの二つの作品は、相前後して描かれたと考えられる。

相違点もある。「紳士」が横長の画面だったのに対してこちらは縦長であること、前者のなかの紳士が一人だったのに対してこちらには二人いること、人物の配置が前者では右側に寄っているのに、こちらではほぼ真ん中よりに配置されていることなどである。

横長から縦長にしたおかげで、構図が安定し、引き締まっている。遠近法の処理も、消失点をやや左側に移したおかげで、前作のような不自然さを感じさせない。

光についても、前作に比較してのびのびとしたものとなっている。前作では、光は画面の中ほどに偏在し、周囲が暗く沈んで見えたが、こちらでは光は画面全体に満遍なくあたっている。そのために色彩が鮮やかさを増している。画面が縦長であることも作用して、ドレスの赤い部分がいっそう強調され、それが窓枠の暖色と応じあって、色の調和が図られている。

男を二人にしたのは、おそらく構図上の都合からだろう。左奥の男のほうは、あまり強いインパクトをもっては描かれていないところから、そう考えられる。それに対して右手の男のほうは、女のうえから覆いかぶさるようにして、女にワインを飲むように唆している。彼の意図が何であるかは、その好色そうな表情から察しがつくだろうと言いたいようだ。

全体的な印象として、この絵は、「紳士」で試みたモチーフを再び取り上げながら、技巧的には「牛乳を注ぐ女」で確立したものを取り込むことで、一段と進んだ境地に達したと感じさせる。



これは女の部分を拡大したもの。女はワイングラスを右手で持って、画面の手前にいるだろう観客のほうへ顔を向けている。その女の右手を軽く支えるようにして、男が女の顔を覗き込んでいる。さあ、はやく飲んでしまいなさい、とささやきかけているようだ。(カンバスに油彩 78×67.5cm ブラウンシュヴァイク、アントン・ウルリッヒ公美術館)






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