壺齋散人の 美術批評
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リュートを弾く女:フェルメールの女性たち





フェルメールは、音楽をモチーフにした絵を何点か描いている。そのなかには楽器を演奏する場面を描いたものがいくつかあるが、「リュートを弾く女」はその早い時期の作品だ。一人の若い女が、窓辺に置かれたテーブルの前に座り、リュートを弾いているさまを描いたものだ。

女はリュートを弾きながら、窓の外のほうに気を使っている。あたかも誰かが来るのを待っているかのようだ。そんなところからこの絵は、逢引きへの予感を描いたのだと解釈されもした。当時、音楽は恋愛のシンボルのような位置づけをされており、またリュートは室内演奏に向いた楽器として、男女の愛の営みに相応しいと観念されていたから、こういう解釈には一定の文化的な背景が伴っていたわけである。

この絵も、顔料の退色が甚だしく、色彩がぼやけており、また暗部は明瞭な輪郭を失って暗黒のように見える。光の処理の仕方は、「天秤を持つ女」とよく似ており、窓から入った光が、女性とその周囲を照らす一方、窓下などの影の部分は暗黒に近い色で描かれているが、それに顔料の退色が作用して、全体的に暗い印象になってしまっている。

その暗い画面の中で、女の顔の部分がハイライトとなって、闇のなかから浮かび上がったように見える。この明暗のコントラストは、当初から意図されたものだと思われるが、退色のためにやや調和を逸脱したような印象を与える。

この退色がどれほどひどいものかは、窓枠のカーテンをみるとよくわかる。このカーテンには当然鮮やかな色彩と明瞭な輪郭が施されていたと思うのだが、今みると、無残に塗りつぶされたように映る。壁にかかった地図も、輪郭がまったくわからないほど形を失っている。



これは女の顔の部分を拡大したもの。髪の毛が抜けているように薄く、眉毛もない。これらは顔料の退色の結果だろうと考えられる。(カンヴァスに油彩 51.4×45.7cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館)





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