壺齋散人の 美術批評
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手紙を書く女と召使:フェルメールの女性たち





「手紙を書く女と召使」は、手紙を読んだり書いたりする女を描くことで、手紙にこだわり続けてきたフェルメールにとって、手紙をモチーフにした最後の作品である。このモチーフでの最後の作品とあって、それまでに現れていた要素が繰り返され、いわばこのモチーフの絵の集大成のようなところがある。

ロケーションは窓の開いた部屋。窓にはレースのカーテンがかかり、それが風を受けて揺らめいている。壁には絵がかかっており、手前のほうには別の分厚いカーテンがのぞいている。そしてモチーフとなる女は、テーブルを前にして、一心不乱に手紙を書いている。いままでの絵には女が一心不乱に手紙を読んでいる様子と、手紙を書くのを中断するところとが描かれ、このようにモチーフが手紙を書く姿を強調するのは、この絵が始めてである。

女が手紙を書いている間に、女中はその脇に立って、腕を組みながら窓の外のほうへ目をやっている。恐らく女主人が手紙を書き終えるのを待っているのであろう。書き終えた手紙を名宛人に届けるのが彼女の役割に違いない。

手紙にはどのようなことが書かれているのか。無論詳しいことはわからないが、絵の内容を手がかりに推理するものはいる。一番大きな手がかりは、壁にかけられた画中画だ。この絵はナイル川に捨てられていたモーゼが人々によって発見される様子をテーマにしている。フェルメールの時代のフランドルでは、モーゼは子捨てを連想させたというから、そのことからこの女が書いている手紙も子捨てとなんらかにかかわりがあるかもしれぬ、と推測するものがいるわけである。

この絵の大きな特徴は、光の氾濫とも言うべき画面の明るさであろう。窓から入った光が、部屋全体にゆきわたり、そこここに強い陰影を生じさせる一方、二人の女の姿を白っぽく浮かび上がらせている。暗部がどぎつく表現されているわけではないのだが、陰影のコントラストが強く見えるのは、光の明度が高い為である。

構図的には、女主人の顔のあたりを消失点とした単純な遠近法を採用している。単純なだけに絵に安定感が感じられる。



これは女主人の部分を拡大したもの。向かって左側が明るく、右側が暗く描かれ、それと対比する形で、左側から上部にかけての背景は暗く、右側の背景は明るくなっている。そうすることで明暗対比を強調し、モチーフを浮かび上がらせる効果を発揮している。(カンヴァスに油彩 72.2×59.7cm ダブリン、ナショナル・ギャラリー)





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