壺齋散人の 美術批評
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冥府へ下るキリスト:ブリューゲルの版画




「冥府へ下るキリスト」は「ニコデモによる福音書」の中で取り上げられている物語で、キリストが冥府へと下り、アダム以下キリスト以前に生きていた人々を救済するという内容のものだ、中世には魂の救済の話として人気があったらしい。

この絵では、キリストは7人の天使を従え、周囲と隔絶された球体の中にいる。左手に大きく口を開いた化け物は魚のイメージで、聖書に出てくるレヴィアタンだと思われる。レヴィアタンの口は地獄の入り口を象徴しており、そこから大勢の人々が出てきて、キリストの祝福を求めている。

この二つのメインイメージを囲んで、ボス風の怪物が画面をうずめている。ブリューゲルはむしろ、こちらのほうにエネルギーを傾けているとさえいえるが、これらの怪物たちが、本題とどのようなかかわりを持つのかは明らかではない。

それにしても、この絵の中の怪物たちのイメージは、以前の版画作品に比較して、いっそう多彩になっている。

画面左上の蛙が口をひらいたようなイメージは、以前の卵の化け物が進化したかたちだろうか。対角線上の右下にはフクロウのような顔をした化け物が尻の穴を突き出している。どちらも出入り口である点で、地獄のカリカチュアなのだろう

ギロチンで首をはねられようとしているナマズの化け物、自分の手で自らを引き裂いている化け物など、これらの化け物たちはキリストの力を前にして、パニックに陥っているようだ。

キリストの球体の下に描かれている、首を突き出して顔をそらしている化け物は、人間のペニスを思わせる。





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