壺齋散人の 美術批評
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誰もが:ブリューゲルの版画




ブリューゲルの版画「誰もが」は、「七つの大罪シリーズ」と同じころに制作された。当時七つの大罪をはじめとした愚かな罪は、農民たちの専売特許のように受け取られていたが、そうではなく、誰もが陥るありふれたことなのだ、ブリューゲルはそう訴えたかったのだといわれている。

この版画には、モチーフを説明する三つの諺が銘されている。「誰もがあらゆることに自分自身を求める」、「誰もが最も長いものを求めて引っ張り合う」、「誰も自分自身を知らない」というものである。

画面には主要人物が6人出てくる、みな衣装にELCK(誰もが)と刺繍しており、それぞれ必死になって何かを探したり、欲しいものを互いに奪い合っている。中央の老人は、昼間だというのにカンテラの明かりをつけ、ガラクタをまたぐようにして、何かを探している。足元にある地球儀はこの世を象徴したものだろうが、穴が開いているのは、不完全な世界だということを表しているのだろう。

ほかの三人の老人も同じように一心不乱に探し物をしている。求めるものは意外と身近にあるということか。一方布を引っ張り合っている二人は、より長いものを求めて引っ張り合っているのだろう。二匹の犬が一本の骨を奪い合うシーンと似ているのかもしれぬ。

左手上方の画中画は、鏡に映った自分の顔に見とれる男を描いているが、これは誰も自分のことを知らないということを表しているのだろう。

中ほど上部の大きなズタ袋には、NEMO NON(誰もかれも)と書かれているが、これは愚かなことでは誰も同じことだという意味だろうか。





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