壺齋散人の 美術批評
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十字架を担うキリスト:ブリューゲルの世界




ブリューゲルは、宗教画を描くことはあまりしなかったが、1564年に、キリストの死と生誕をテーマにした絵を何点か描いた。これはそのうちの一点、「十字架を担うキリスト」だ。アントワープの美術収集家ヨンゲリングの依頼に基づいて描かれたのではないかとされている。ヨンゲリングはブリューゲルの絵を16点所有していたが、そのすべてはハプスブルグ皇帝家に収められた。

広大な風景を背景に、大勢の人々に紛れたキリストを描くのは、この時代のネーデルランド絵画の伝統を踏まえたものだといわれている。人々の服装は、ブリューゲルの同時代人たちの服装そのままだ。

画面の中央に、十字架を担ったキリストが描かれている。キリストは十字架の重みでふらついて、膝を折っている。キリストの前には、大八車に乗せられた二人の囚人が描かれている。彼らもキリストとともに公開処刑される運命なのだ。

処刑場は画面右上に小さく描かれている。人々がぐるりと取り囲んだ円形の広場には、囚人を処刑するための二つの十字架がすでに立てられている。キリストの十字架を立てるための穴が、その傍らに掘られている。

画面右端の棒の先には車が乗っており、そこに烏が止まっている。烏の足元には布切れがぶら下がっているが、それは別の処刑上から烏が咥えてきたものだろう。

画面に右手前には、聖母マリアの一行が描かれている。彼女たちは背景で進んでいる騒ぎには無関係に、ただひたすら祈りをささげている。

画面際右端にちらりと見えるひげ面の男は、ブリューゲル自身である。

(1564年、キャンヴァスに油彩、124×170cm、ウィーン美術館)





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