壺齋散人の 美術批評
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盲人の寓話:ブリューゲルの世界




ブリューゲルは比較的初期の頃から、画面を埋める民衆の中に盲人の姿も忍び込ませてきた。かれらはこの絵にあるように、単独ではなく集団で行動する場合が多い。そんな彼らをブリューゲルは同情の目ではなく、突き放した目で観察している。

この絵では6人の盲人が互いに杖でつながっている。先頭の盲人が何かの拍子で転んだところ、二番目の盲人は明らかにショックでうろたえ、そのショックが三番目の盲人にも伝わろうとしている。この様子は、聖書の中の言葉「盲人が盲人の道案内をすれば、二人とも穴に落ちてしまう」を思い出させる。

ブリューゲルの観察の鋭いことは、この絵の中の盲人たちが、どんな病気をわずらったかまで推測できることだという。ひだりから三番目の盲人は角膜白斑であり、その前の男は黒内障である。そして転ぼうとしている男の目は刳り貫かれている。刑罰を受けたか障害を蒙ったかで、目玉を繰り抜かれたのでもあろう。

背景に教会の建物を描いているところは、ブリューゲルの他の絵と共通する特徴の一つだ。

(1568年、カンヴァスに油彩、86×156cm、ナポリ国立美術館)





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