壺齋散人の 美術批評
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野兎:デューラーの水彩動物画




デューラーは水彩で動物や植物を多く描いたが、それらは対象を写真で写し取ったように精細なことが特徴だ。特に1500年前後に描かれた作品がそうである。この時期デューラーは人体比例の研究をしており、人間をそのままに写しとることに意を注いでいたわけだが、そうした態度が動物画や静物画にも表れていたのだと考えられる。

これは野兎を描いたもので、デューラーの作品のなかで最も有名なもののひとつである。デューラーはまず、輪郭に沿ってウォッシュを施し、その後で、一本一本の毛を丁寧に書き加えた。そのため、この絵を見ると、まるで写真のように正確で、しかも写真にはないある種独特の雰囲気が伝わってくる。人間の手が絵に一種のオーラを植え付けた結果だと考えられる。

なおこの時期のデューラーは、聖母伝の木版画を手掛けていたが、それら木版画の中でも、動物や自然が前景や背景として使われており、デューラーの水彩画は、それらのための腕試しと言う意味ももっていたようだ。

(1502年、紙に水彩とグアッシュ、25.1×22.6cm、ウィーン・アルベルティーナ)





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