壺齋散人の 美術批評 |
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一万人のキリスト者の殉教:デューラーの世界 |
「一万人のキリスト者の殉教」は、ヘラー祭壇画の注文主ヤーコブ・ヘラー宛書簡の中で言及がある。それによると、この絵はザクセン選侯帝フリードリッヒ三世の依頼によるものだとわかる。フリードリッヒ三世は古くからのデューラーのパトロンで、「東方三王の礼拝」のほか、この絵と同じ主題の木版画をも注文している。 一万人のキリスト者の殉教とは、ペルシャ王シャプール二世治下(四世紀)におこった歴史上の出来事で、敬虔なキリスト教徒を自認していたフリードリッヒ三世は、この主題による絵画を二度にわたってデューラーに注文したというわけなのであろう。大作ということもあるが、デューラーは対価として、当時としては破格の280グルデンを受け取っている。 構図を見ると、高い地平のもとで、人物像がぎっしりと詰め込まれており、背景の風景ともども、イタリア絵画の調和ある構図と言うよりは、オランダ風の荒々しさが伺われる。注文者フリードリッヒ三世の好みを反映したのだろうと思われる。 画面中央にいる黒い服を着た男はデューラー自身だと言われている。その男が手にしている銘板には、「これを1508年にドイツ人デューラーが作った」と記されている。 デューラーを中心に展開している人々は、裸の人間を別にすれば、青い衣装を着ている者が目立つ。そこのところは、ほぼ同じ時期の「ローゼンクランツ祝祭画」や「ヘラー祭壇画」と趣を異にする。それも、フリードリッヒ三世の好みのためも知れない。 なおこの絵は当初板絵として作られたが、現存するものは、18世紀にカンヴァスに移されたものである。 (1508年、油彩画、99×87cm、ウィーン、美術史博物館) |
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