壺齋散人の 美術批評
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聖ヒエロニムス:デューラーの油彩肖像画




デューラーは1520年7月から約1年間、ネーデルラントに旅行した。この時は妻のアグネスを伴って行った。旅行の目的は、新たに皇帝となったカール五世にネーデルラントで面会し、前皇帝マクシミリアン1世から賜った年金の権利を確認してもらうことだった。というのも、マクシミリアン1世が死んだ後、この権利がニュルンベルグ市当局から反故にされかかったからである。結局デューラーは所期の目的通り、年金の権利を確認してもらった。

ネーデルラントでは、デューラーは様々な人々から大歓迎を受けた。彼は今やヨーロッパで最も有名な画家になっていたのである。ネーデルラント滞在中のデューラーは、肖像画の素描をいくつか描いたほかは、本格的な絵をほとんど描いていないが、ひとつだけ油彩による板絵の肖像画を描いた。「聖ヒエロニムス」がそれである。

フランドルの伝統的肖像画の構図に従ったこの絵は、机によりかかった髭の老人が骸骨を指さしている。老人と骸骨の組み合わせは聖ヒエロニムスを直ちに連想させるのであるが、デューラーはこの絵に、「メメントモリ=死を忘れるな」のメッセージを盛り込んだのである。

デューラーは、友人ロドリーゴ・ダルマーダの依頼によってこの肖像画を描いたのだが、モデルはダルマーダではなく、別の機会にスケッチした「93歳の男」の素描にもとづいて描いた。この絵の構図に多少不安定なところが見られるのは、その故であると考えられる。

(1521年、板に油彩、59.5×48.5cm、リスボン国立美術館)





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