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カーニバルの夕べ:アンリ・ルソーの世界




「カーニバルの夕べ(Un soir de carnival)」と題したこの作品は、現存するルソーの作品のうちもっとも古いものである。ルソーはこれを1886年の第二回アンデパンダン展に出品した。ルソーの画家としてのデビューは、その前年1885年のサロンへの応募だったのだが、これは落選となって公衆の目に触れることはなかった。その同じ年(1885年)に始まったアンデパンダン展は、会費さえ払えば誰でも出展できたので、これが公衆の目に触れたルソーの初めての作品になったわけだ。もっともその時には、全くといってよいほど反響はなかった。日曜画家の殴り書きと受け取られたのである。

ルソーは、ある文章の中で、42歳の時に絵を描き始めたといっている。42歳の年は1886年にあたるから、この「カーニバルの夕べ」を描いた年である。だが実際にはその前年に、「イタリアの踊り」ほか一点をサロンに応募している(どちらも今日には伝わっていない)。いずれにしても、ルソーの画家としてのデビューは、職業画家としては非常に遅かったわけだ。

アンデパンダン展は、ルソーにとってほぼ唯一の作品公開の場となり、1899年と1900年を除いて、死ぬまで出展し続けた。

満月の光に照らされた森の中を、二人の男女が手を取り合って歩いている光景を描いている。男女はピエロとコロンビーヌ。おそらく版画かなにかをもとに描いたのだと思われる。ルソーは実写を基本としていたが、時には版画や写真をもとにしたこともあった。

画面全体を支配する静けさ、小枝の一本一本まで微細に描く綿密さ、人物が正面から描かれていることなど、後にルソーの特徴とされる要素が盛り込まれており、彼の一生の画風を予知させるものだ。

(1886年 カンバスに油彩 116×89㎝ フィラデルフィア美術館)




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