壺齋散人の 美術批評 |
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ピエール・ロティの肖像:アンリ・ルソーの世界 |
ピエール・ロティは、フランス海軍士官として世界中をまわり、立ち寄った各地の印象を、エッセーや小説に書いた。日本にも縁があり、鹿鳴館の舞踏会にも参加したことがあった。フランス人特有のエリート意識の持ち主で、日本人を醜悪な生き物として軽蔑していた。そんなロティと、ルソーとの直接的な接点はない。ルソーにはエキゾチズム趣味があり、「マガザン・ピトレスク」といったエキゾチズム雑誌を読んでいたようだが、それにインスピレーションを受けて、ロティのこの肖像画を描いたのだろうと思われる。 実物をモデルにしたわけでははく、写真を参考に描いたのだろう。いちおうロティの肖像画ということになっているが、本人を前にして描いたわけではないので、ロティにこだわることはないかもしれない。それを除外して見れば、これもやはり風景に溶け込んだ肖像画ということになる。 背景には、ルソーらしいタッチの樹木と、煙を吐き出す煙突が描かれている。また前景には、丸椅子に座った猫が描かれているが、丸椅子といい猫といい、人物との関連は極めて薄く見える。また、どちらも互いを意識していないようだ。だから画面に連続性がなく、見る者の視線もばらばらになりがちだ。この絵にはどことなく落ち着きの悪いところがあるが、それは画面の構成に理由があるのだろう。 (1891年頃 カンバスに油彩 61×50㎝ チューリッヒ美術館) |
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