壺齋散人の 美術批評
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砲兵たち:アンリ・ルソーの世界




「砲兵たち」は「戦争」と同じ時期に描かれたと思われる。「戦争」のほうは戦争の残酷さを描いているが、こちらは戦士たちの勇敢な姿を描いている。ルソーには約五年間の軍隊生活があり、これはその体験を踏まえた作品かとも思われているが、実はそうではないらしい。ルソーはこの絵を、実在の歩兵部隊を前にしてではなく、記念写真をもとに描いたらしいのである。

ルソーは19歳の時に志願して歩兵部隊に入ったのだが、それは盗みをして裁判にかけられるという不名誉な事態を少しでも取り繕うためだったと言われる。兵隊としてのルソーは無能そのもので、五年後に退役した時にも二等兵のままだった。普通にやってれば、こんなことはあり得ないので、ルソーがいかに無能な兵士だったか、わかろうというものである。

ルソーとしては最初の集団肖像画だが、モデルはすべて正面を向いている。ルソーの肖像画の特徴が、集団肖像画でも発揮されているわけだ。レンブラントなどの集団肖像画に比べると、ルソーのそれが異常にとりすました静けさに包まれていることが強烈に迫って来る。

静かな印象は色彩によって増幅されている。グリーンを中心にした寒色主体の色使いで、ところどころ曖昧な暖色でアクセントをつけている。軍人たちはみなモノラルで描かれ、グリーンの背景にとけこんでいる。

(1894年頃 カンバスに油彩 80.6×100.6㎝ ニューヨーク・グッゲンハイム美術館)




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