壺齋散人の 美術批評
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女性の肖像:ルソーの世界




ピカソがルソーに深い敬意を表していたことはよく知られている。ピカソはその敬意の印として、大勢の友人を集めた夜会を開き、そこにルソーを招いた。美術史上有名な1908年のピカソのアトリエの夜会である。その夜会の席では、会場のもっとも目立つ場所に、ルソーの「女性の肖像(Portrait de femme)」という絵が飾られた。ピカソはこの絵を、ジャンク市場でたった五フランで買ったのだが、それ以来大事にしていた。いまでもピカソ美術館に保存されている。

1908年のその夜会というのは、ギヨーム・アポリネール、マリー・ローランサン、マックス・ジャコブ、アンドレ・サルモンといったそうそうたるメンバーが参加していて、その様子は、後にアポリネールによって紹介され、そこからルソー伝説が生まれた。アポリネールの文章が多分に脚色がかったものであることは、いまでは明らかにされている。

この夜会は、ルソーをからかうことが目的だったといわれ、実際そのような意図をもった不心得者もいたようであるが、ピカソに関していえば、かれはルソーを深く尊敬していたのであって、からかうつもりなどは毛頭なかったと言われている。

ともあれ、この絵は、夜会を飾るものであり、又ピカソのルソーへの敬意を引き寄せたものであった。構図といえば、ルソーらしく前面を向いた女性の肖像であるが、モデルはおそらく死んだクレマンスのイメージを重ねているのだろうと思われる。顔がクレマンスに似ているようなのだ。

(1895年 カンバスに油彩 160×150㎝ パリ、ピカソ美術館)




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