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過去と現在:アンリ・ルソーの世界




1899年9月に、ルソーはジョゼフィーヌと結婚した。彼女はノルマンディ出身の庶民の娘で、敬虔なカトリックだったといわれる。そのほかのことはほとんどわかっていないが、ルソーはクレマンスの死後間もない頃に彼女に思いを寄せて以来、ほぼ十年越しの恋が実って結婚したのだった。

「過去と現在(Le Passé et le présent, ou Pensée philosophique)」と題したこの絵は、その結婚を記念して描いたものとされている。頬髯をそり落としたルソーとジョゼフィーヌが手に手をとりあっている。画面上部には、若い頃のルソーと死んだクレマンスの顔が描かれている。この二組が、それぞれ過去と現在を象徴していると言いたいわけであろう。

画面右下の署名の下には、「愛する人に別れた二人は、昔の思いに忠実なまま結ばれる」と書かれている。

この時のルソーは55歳、ジョゼフィーヌは48歳だった。絵の中のジョゼフィーヌは年より若く描かれている。実際のジョゼフィーヌは、年よりも老けて見えたらしい。彼女の肖像画が、ルソーの自画像とセットで残っているが、その表情は老婆のものである。なお、ジョゼフィーヌは、結婚四年後の1903年に病死している。

(1899年 カンバスに油彩 84.5×47.0㎝ バーンズ・コレクション)




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