壺齋散人の 美術批評
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蛇使いの女:アンリ・ルソーの世界




1907年の「サロン・ドートンヌ」に出展された「蛇使いの女」は、ルソーの代表作と言ってよい。実際この作品が展示されたとき、人びとは沈黙して画面に見入ったと言う。それまでならかならず、ルソーの素朴さを揶揄するような評が出たものだが、この絵に限っては、そういう揶揄は一切聞かれなかった。それほど迫力があったのである。

ルソー得意の異国情緒をモチーフにした絵である。密林の中に神秘的な池が横たわり、その池のかたわらに裸の女がたたずんで横笛を吹いている。女の首には蛇が巻き付いていて、笛の音に合わせて身をくねらせている。なんともいえない不思議さを感じさせる。女の吹く笛の音は、蛇のみならず、白鳥をも魅せる。画面のなかの生き物ばかりではない。画面に見入る観客までも魅せる。

密林の植物の描き方は、ルソーらしいマニアックぶりである。マニアックでありながら、量感を備えている。その量感は、画面左手に設けられた空白によって強調されている。特に、空にかかった日中の月が効果的だ。

なお、ルソーは、この年の暮れに、詐欺事件にかかわった罪に問われて逮捕、拘留される。そのさいの取り調べの席で、かれは画家だと自己紹介し、自分の代表作として、この作品を上げたのだった。

(1907年 カンバスに油彩 169×189㎝ パリ、オルセー美術館)




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