壺齋散人の 美術批評
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赤道上のジャングル:アンリ・ルソーの世界




最晩年のルソーは、もっぱら異国情緒豊かな作品を描き続け,大作「夢」に至って頂点を極める。この最晩年、それは1908年の後半ごろから死ぬ年の1910年に及ぶと思われるのだが、その時期はルソーが最後の恋をしていた時期でもあった。しかしその恋は実らず、心をうちくだかれたうえに、足にできた腫瘍が悪化して、ルソーは急ぐようにして、あの世に旅立ったのである。

「赤道上のジャングル」と題したこの作品は、文字通り赤道上のジャングルの風景を描いたものだが、実写ではない。構図は写真をもとに決め、詳細は熱帯植物園での観察とか、自分なりのイマジネーションをもとにしたのだろう。

全体が寒色系でまとめられているので、熱帯がテーマでありながら、暑さの感じは伝わってこない。草陰にいる動物は、ライオンともヒョウとも区別がつかない。どちらかというとユーモラスな表情をしている。

左手の花がピンクで塗られているが、これはあまり暖かさを感じさせない。ピンクなどのマゼンタ系の色は、赤系統の色の中で紫がかっているので、その分暖かさを減じている。ルソーとしては、全体に冷たい印象の勝った作品である。

(1909年 カンバスに油彩 140.6×129.5㎝ チェスター・ダール・コレクション)




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