壺齋散人の美術批評
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街:ホッパーの世界




45歳になった1927年に、ホッパーは画家として最初の豊饒な時期を迎えた。この年には風景画や人物画の傑作を描いている。風景画については、「線路際の家」で確立した作風をより深めたと指摘できる。明確な輪郭と強烈な明暗対比をつうじてリアリスティックなイメージを演出するとともに、単なるリアルな現実描写にとどまらぬ、精神的な要素を盛り込む、というのがホッパーの自覚的な制作方針だった。

「街(The city)」と題するこの作品は、ホッパーの前期の風景画を代表する作品。どの都市を描いたのかはよくわららぬが、おそらくアメリカの地方都市だろう。背景に広がる平坦な空間がそのように感じさせる。描かれている建物はヨーロッパ的だが、それはたまたまそのようにデザインされたのであって、アメリカ人の俗物趣味のあらわれだと考えることができる。画面には、ヨーロッパ風の凝った建物のほかに、いかにもアメリカ風の殺風景な建物も描かれている。

あたかも上空から眺め下したような構図は、1921年の「夜の影(Night shadows)」と同じもの。「夜の影」は、交差点の一角に立つ建物と、その脇を歩く一人の男を描いていたが、強烈な明暗対比で影の深さを表現する一方、歩いている男には存在感がなく、あたかも幽霊のように見える。

この「街」にも、広場を歩く数人の人間が描かれている。その姿は極端に小さく描かれているため、あまり存在感がない。しかもかれらはそれぞれ勝手な方向に向いており、しかも前かがみになっている。あたかも風をよけているようだ。

強い明暗対比は見られない。そのかわり窓を黒く塗りつぶしている。そこにも人間の存在の希薄さを感じさせられる。

(1927年 カンバスに油彩 70×94㎝ アリゾナ大学美術館)



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