壺齋散人の美術批評
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沿岸警備隊:ホッパーの世界




「沿岸警備隊(Coast guard station)」と題するこの作品も、1927年の夏にメーン州にドライヴした折に見かけた光景を描いたものだ。ホッパーは、買ったばかりの自動車に愛妻ジョーを乗せて、ニューイングランドの海岸を走るのが好きだった。

沿岸警備隊というのは、日本でいえば海上保安庁に相当する。日本の海上保安庁は、いかにもお役所そのものだが、アメリカ沿岸警備隊のこの建物は、お役所らしさを感じさせない。野中の一軒家といった風情である。

その建物に、強い日差しがふりそそぎ、それが強烈な明暗対比を醸し出している。しかも建物全体が、「灯台の丘」の灯台のように画面の端によるのではなく、画面の中心を占めているので、観客は真正面からこの建物を凝視することとなる。

光の当たっている部分より影の部分のほうが多いところは、「灯台の丘」と似たようなものだ。こちらのほうが、光の割合が多い分だけ、構図の安定感は増しているが、しかし影の割合もかなり多いので、なんとなく不安定にも見える。

かならずしも見上げるような構図にはなっていないが、しかし建物と観客との間にかなり広い空間があるおかげで、建物はずっと奥へ後退して見える。前景の空間は、いかにもアメリカの風景らしい荒々しさを感じさせる。

(1927年 カンバスに油彩 73.7×109.2㎝ ニュー・ジャージー モントクレア美術館)



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