壺齋散人の美術批評
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コンパートメントC:ホッパーの世界




ホッパーは鉄道の線路をよく描いたが、列車にも関心をもっていたようだ。「コンパートメントC(Compartment C Car)」と題するこの作品は列車の社内の空間を描いたもの。コンパートメントと呼ばれる客室の内部だ。コンパートメントはふつう、個室状になっているものでが、これは開放的な作りだ。おそらく片側が通路で、それに沿ってコンパートメントが並んでいるのだろう。そのコンパートメントを、通路を通りがかった者の目からとらえたというのが、この作品の構図だ。したがって、やや上部から室内を眺め下ろした感じになっている。

室内には一人の女性が席に座り、雑誌を読んでいる。窓からは、外の風景が見える。河に橋がかかっており、その背後には暗い森が見える。森の上空は赤く染まっているから、夕暮れ時なのだろう。その夕暮れの色を除けば、画面のほとんどはグリーンを中心に寒色で塗られている。そのため全体的に、冷え冷えとした雰囲気を感じさせる。

その寒色をバックに、女性の肌の色が温かく感じられる。その女性は無心に雑誌に見入っており、人に見られているといった自覚はないようである。そのため、寒々とした色合いとあいまって、見る者に寂寥感をいだかせる。

(1938年 カンバスに油彩 50・8×45.7㎝ ニューヨーク州、IBMコレクション)



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