壺齋散人の美術批評
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線路際のホテル:ホッパーの世界




「線路際のホテル(Hotel by a railroad)」と題したこの絵も、閉じられた空間にいる人物をモチーフにしている。おそらく夫婦だろう。夫婦が二人きりになっているのだが、かれらは互いに意識していない。それぞれ自分の世界に閉じこもっている。そこに我々は、アメリカ人の人間関係のドライさを感じる。そのドライさは、夫婦のような、本来親密であるべき関係にあっても支配的なのだ。

妻は壁際のソファに腰かけて本を読みふけっている。一方夫のほうは、開いた窓から外部のどこかを見つめているが、彼の視線の先に何があるのかはわからない。少なくとも、この画面には見えない。ということは、彼は何も見ていないのと同じことだ。

部屋の中はいかにも空虚という感を催させる。その空虚さは、壁にかかった鏡の中になにも映っていないことによって引き立てられている。鏡だから何らかの事物を映しているはずなのに、何も映っていないということは、映されるような実体のある事物が、この空間中には存在しないということだろう。

窓の向こうに別の建物の壁と閉ざされた窓がのぞいている。その建物の向こう側に、赤い線路があるのがわずかに見える。光線は画面右上から注いでいる。それが作る影が、室内にも反映している。

(1952年 カンバスに油彩 79.4×101.9㎝ ワシントン、ハーシュホーン博物館)



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