壺齋散人の美術批評
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日を浴びる人々:ホッパーの世界




「日を浴びる人々(People in the sun)」と題したこの絵は、構図の特異さが人の度肝を抜く。道路上に椅子を並べて座った人々が画面の左半分を占め、残りの右半分には低い山々からなる自然が描かれている。人間と自然が対面しているわけであるが、しかし人々は自然を見ているわけではない。人々は何も見てはいないようなのだ。かれらはひたすら日を浴びて、体を温めがっているように見える。

だが、かれらの体が温まっていないことは、暖かそうな上着を脱いでいないことからうかがわれる。その上着を着た格好で、かれらは太陽に向かってせいぜい体を伸ばし、なるべく全身で日のぬくもりを受け止めようとしているかのようだ。

一人だけ、集団から離れ、読書に没頭している男がある。こんな状態では読書に集中できないであろう。寒さで手がかじかむだろうし、日の光のために紙がまぶしく光って字面をおうのが困難になるだろうからだ。

かれらの傍らの建物は、おそらくホテルなのだろう。ホテルの客が太陽の恵みにあずかろうとして、揃ってひなたぼっこをしているのではないか。ともかく不思議な印象を与える絵である。

(1960年 カンバスに油彩 102.6×153.4㎝ ワシントン、国立アメリカ美術館)



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