壺齋散人の美術批評
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サーカスの馬:ボナールの世界




「サーカスの馬(Le cheval de cirque)」と題されたこの作品は、完成したのは1945年だが、1936年ごろに制作に取り掛かったというから、実に十年をかけたわけである。おそらく当初の作品に満足できず、大幅に描き変えたのだろうと思われる。この絵には、晩年のボナールの雰囲気がよく出ているからである。

晩年のボナールは、フォルムとか輪郭といったものにこだわらなかった。色彩だけを頼りにして、対象を描こうとするところから、いきおい抽象的な雰囲気を醸し出すこととなった。この作品にはまだ、具象的なところがあるが、それでもフォルムへのこだわりはかなり弱い。

ボナールが馬を主題的に描いた作品は、これ以外にはないのではないか。サーカスの雰囲気が気に入って、その雰囲気のなかにいる馬を描きたいと思ったのかもしれない。この絵の中の馬がいる空間は、通常の馬小屋ではなく、いかにもサーカスの厩舎らしい雰囲気に包まれている。前面の馬の面にも、エンターテイメントの雰囲気がただよっている。

(1946年 カンバスに油彩  94書ける18㎝ 個人蔵)



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