壺齋散人の 美術批評
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彼女をめぐって:シャガールの恋人たち




急逝したベラに捧げた二枚の絵のうちのもう一枚が、この「彼女を巡って」と題する絵である。これはもとの絵「アルルカン」の左半分をもとにしたものだが、片割れの「華燭」に比べると、色遣いがいっそう陰鬱になっている。暗色のブルーが基調となっており、全体がメランコリックな雰囲気に包まれている。

中央に浮かんでいる巨大なシャボン玉の中には、二人の故郷ヴィテブスクの街が、黄色い月ごと詰まっている。そのシャボン玉を挟んでベラとシャガールが向かい合っているが、ベラの顔は泣きべそをかいており、シャガールの頭は逆さまになっている。頭が逆さまなのは、シャガールの精神状態がまだ混乱していることをあらわしているのだろう。

右上には抱き合う男女が木の茂みに包まれて浮かんでおり、左上には羽を広げた鳥が蝋燭をかざしている。そして逆立ちした女性が巨大なシャボン玉を支えている。これらの形象は、シャガールには馴染のあるものだが、この絵の中では、独特の色彩と調和して、ベラへの鎮魂の気持ちを表現しているのだと思う。

(1945年、キャンバスに油彩、130.9×109.7cm、パリ、ポンピドゥー・センター)





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