壺齋散人の 美術批評 |
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怒れるメデア:ドラクロアの世界 |
メデアはギリシャ神話の英雄イアソンの妻だ。イアソンがアルゴノートを率いてコルキスに赴いた際に、コルキスの王女であったメデアは、イアソンに協力して金羊毛を獲得させた。それ以後二人は愛し合い、メデアはコリントス王イアソンの妻となったのだったが、そのイアソンが自分を裏切って他の女を妻にしようとしたことに怒り狂い、その女を殺した上でイアソンをも殺そうとする。ところが愛するイアソンを殺すことが出来ず、その身代わりとしてイアソンとの間に生まれた二人の子どもを殺すのである。 この凄惨な物語は、エウリピデスによって戯曲化され、以後ヨーロッパ中で演じられたほか、美術の題材にもなってきた。それをドラクロアは、自分なりの解釈にもとづいてイメージ化したわけである。 絵は、半裸のメデアが二人のこどもを抱え上げ、いまにも短剣を突き刺そうとする場面を描く。メデアの視線は洞窟の外から差し込む光の方を向き、子供たちは母親にきつく抱えられて苦しそうにもがいている。 三角構図に収まった人物の配置は、絵画的には安定感を抱かせるが、モチーフそのものはダイナミックな躍動感に満ちている。この逆説的ともいえる表現が、この絵に独特のオーラをもたらしている。 これを見たジョルジュ・サンドはドラクロアに宛てて書いた手紙で、「メデアは何と美しく、また悲痛な存在なのでしょう」と書いた。サンドに限らず、この作品を褒め称える意見は多かった。1838年のサロンに出展された際には、ドラクロアの最高傑作と賞賛されたものだ。 ドラクロア自身も、この作品には強い愛着を感じていたようで、同じモチーフを繰り返し描いている。 (1838年 カンバスに油彩 260×165cm リール市立美術館) |
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