壺齋散人の 美術批評 |
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赤い食卓(La desserte rouge):マティス、色彩の魔術 |
1908年の作品「赤い食卓(La desserte rouge)」は、マティスがフォーヴィズムを完全に脱却して、全く新しい境地に入ったことをうかがわせる作品だ。遠近法とか色彩の調和についての従来の常識を悉く覆したこの絵は、絵画という形式の芸術に新しい時代が幕を開けた、と人々に感じさせた。 それにしてもすさまじい色彩感だ。背景の壁も、手前のテーブルも同じ赤で塗られているために、フォルムの境界があいまいだ。このように色彩の爆発とフォルムの単純化が、これ以降のマティスの基本的な特徴となる。 実はこの絵は、最初に描かれたときには、背景の壁の赤に対比させる形で、手前の食卓は青く塗られていた。したがって題名も「青い食卓(La desserte bleue)」と言った。その絵は、サロンに出展されていたところを、ロシア人画商のシチューキンが買い取ったのだが、あとでそれを受領にいったところが、青い食卓が赤く塗りなおされ、今見るような形になっていたという。 マティスがどのような意図で、食卓の色を塗り替えたか、よくわからない。だがそのことで、絵の印象が劇的に変わったことは間違いない。シチューキンはさぞびっくりしただろう。このことで、壁と食卓の境界がわからなくなり、食卓の上の小物たちはまるで宙に浮かんでいるように見えるし、画面右の女性も空中で家事にいそしんでいるように見える。しかし食卓まで赤くしたことで、赤い色彩が爆発的な効果を発揮するようになった。 マティスは最初、ヴェラスケスの絵「マルタとマリアの家のキリスト」を参考にしてこれを描いたという。そう言われてみれば、構図がよく似ている。奥のほうに窓があって、手前のテーブルでは二人の女(マリタとマリア)が家事をしている。マティスは窓を左側に配し、二人ではなく一人の女を右手に配した。窓の中には一応庭が見えているが、それは実際の景色というよりは、模様のように見える。その点では窓も同じで、窓枠を含めた窓全体が、赤い壁に描かれた模様のように見えなくもない。 マティスはこういう、視覚の遊びというようなものが好きだったようだ。(1908年 キャンバスに油彩 180×200cm ペテルブルグ、エルミタージュ美術館) ヴェラスケスの絵「マルタとマリアの家のキリスト」 |
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