壺齋散人の 美術批評 |
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ギターを持つ黄色と青の女(Femme en jaune et bleu à la guitar):マティス、色彩の魔術 |
マティスは、いろいろなタイプの絵を描いたが、もっともマティスらしさを感じさせるのは女性の肖像だ。いろいろな技法を用いて、時代ごとに描き方は変遷したが、女性の美、それは肉感的な美といってよいが、それをキャンバスの上に定着させようとした。一群のオダリスク像はそのもっとも完成された形だ。 このような女性の美の追求は、アングル以来のフランス絵画の伝統の一つだった。アングルはそれをイタリアのルネサンスの画家たちから受け継いだと言えるが、単にイタリアの模倣に止まらず、フランスらしい優雅さを追及した。オダリスクをはじめとして、アングルの女性の裸体像は、そうしたフランス的な女性美の理念化されたものと言ってよい。 マティスは、アングルの確立したフランス的な女性美、それは先述したように肉感的なものを主体とし、それに精神的なものを融合させたものであるが、そうした新たな感じの女性美のあり方を飽くことなく追究したといってよい。 晩年のマティスは、装飾的な要素を重んじることになった結果、オダリスク像に見られたような肉感性は弱まったが、フォルムを単純化することによって、女性美を典型として捉える視点が強まったといえよう。肉を重んじれば、個別具体的な表現に傾くが、女性美を美の一つの典型と捉えれば、それは抽象的な色彩を帯びるようになる。 こんなわけで晩年のマティスの女性像には、抽象性の深まりと、そこからにじみ出てくる精神の輝きのようなものが見られるようになる。 「ギターを持つ黄色と青の女(Femme en jaune et bleu à la guitar)」と題したこの絵は、一見具象的な絵に見えるが、実際にはフォルムをかなり単純化するなど、抽象的な要素の強い作品だ。絵というより、イラストといってよいかもしれない。イラストというものは、なかには具象的なものもあるが、基本的には抽象的なものである。 この絵の中のギターにも、「音楽」の場合と同じく、ギターにストリングが張られていない。 (1939年 キャンバスに油彩 65×54cm 個人蔵) |
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