壺齋散人の 美術批評 |
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陽光の中の裸婦:ルノワールの世界 |
1876年の第二回目の印象派展に、ルノワールは「散歩に出かける子どもたち」とともに「陽光の中の裸婦(Etude ou Torse:effet de soleil)」を出展した。この絵は、批評家たちの度肝を抜いたらしく、「散歩」よりも激しく攻撃された。緑や紫がかった斑点が体のあちこちにあり、まるでおできのようだ、と酷評するものもあった。 しかしルノワールは、そういう酷評を意に介しなかった。この絵は、色彩だけでモチーフを表現しようとするルノワールの実験的精神を盛り込んだものだ。一見してわかるとおり、この絵には一切線がない。線のかわりに色彩の濃淡でモチーフの輪郭をあらわしている。 また、この絵には光があふれているように見える。その光は、単にモチーフを照らし出すばかりでなく、自然と一体化しつつも、そこから浮かび上がってくるような切迫感を画面に与えている。また、この光には、空気の存在まで感じることができる。それも、風のように揺らめく空気。その空気の揺らめきが、光とともに、見る者に伝わってくるようだ。 好意的な評者は、この絵を、ボッティチェッリのヴィーナスの誕生に譬えた。水ではなく、光のなかから誕生したヴィーナスのイメージを見たわけだろう。 当時ルノワールの絵に強い関心を持っていたギュスターヴ・カイユボットは、この絵を買い取ってくれた。この薄幸の男は、自分自身も画家であったが、絵画史に名を残したのは、その作品のためではなく、印象派の擁護者としてだった。かれは印象派の画家たちの作品をできるだけ買うことにしていたが、それらの作品は、彼の死後フランス政府に寄贈された。それがフランス政府が印象派の作品を集めるきっかけとなった。 (1875年 カンバスに油彩 81×65㎝ パリ、オルセー美術館) |
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