壺齋散人の 美術批評 |
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ピアノの前の少女たち:ルノワールの世界 |
1880年代の後半に、ルノワールはベルト・モリゾを通じて、詩人のステファヌ・マラルメと知り合った。マラルメは、画家たちと懇意にしていて、マネに肖像を描いてもらったりしていた。そのマラルメが、ルノワールを高く評価し、彼の作品を国立博物館に飾ってもらおうと思い、国立美術学校の校長アンリ・ルージョンに働きかけた。ルージョンは、その旨ルノワールに申し出たが、ルノワールは,自分はまだその器ではないと言って、謝絶していた。 しかしついに、その申し出を受けることにした。そしてそれにふさわしい作品を、全霊を込めて描き上げた。「ピアノの前の少女たち(Jeunes filles au piano)」と題するこの絵がそれである。この作品は、リュクサンブール美術館に展示することを目的に、4000フランで買い上げられた。生前に国家から、美術館に展示することを目的に作品を買い上げられたのは、シスレーに続いて、ルノワールが二人目だった。 この作品は、ルノワールが全霊を込めただけあって、それまでのルノワールの集大成のような観を呈している。印象派を脱却し、古典主義を経由してたどりついたルノワール独特の画境が、この作品には盛られている。それは、明確な輪郭を主体にして、豊かな色彩を展開するというものである。しかもその輪郭は、露骨な線描で表現されるのではなく、あくまでも色彩の対比を通じて表現している。そこからルノワール独特の、柔らかい雰囲気が醸し出される。 この絵の中の少女たちのモデルははっきりしない。その彼女らから、躍動感が伝わって来る。ルノワールはそれまでも、人の仕草をスナップショット風に表現するのが得意だったが、この作品ではそれが充分に発揮されている。 マラルメはこの作品を、自分が仲介した手前もあって絶賛し、このような成熟した作品を選択されたことを称賛する手紙を、ルージョン宛に出した。 (1892年 カンバスに油彩 116×90㎝ リュクサンブール美術館) |
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