壺齋散人の 美術批評 |
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手紙を書く女:フェルメールの女性たち |
フェルメールは絵の中に手紙を取り入れることが好きだったようで、手紙を読む女を二点、手紙を書く女を三点描いている。これは、手紙を書く女のうちの一点。このモチーフとしては最初のものだ。フェルメールが、手紙に拘ったのは、時代の流行と関係があるらしい。1650年代のフランドルでは、手紙を書く女をモチーフにした絵が流行したが、フェルメールはそれを意識して、1660年代に手紙をモチーフにした絵を描いたのではないか。 この絵の中の女性は、テーブルの前に腰掛けて、手紙を書く手を休め、こちら側を見ている。他の画家、たとえばテル・ボルフの絵では、モデルの女性は手紙を書くことに熱中しているが、この女性は手を休めて観客のほうを見ている。このように画中のモデルが、あたかも観客を意識しているように見えるのは、フェルメールの絵の一つの特徴だ。 この女性が着ている、白いフリルのついた黄色い上着は、「リュートを弾く女」、「真珠の首飾り」のモデルが着ていたのと同じものだ。この後も、「女と召使」はじめ三点ほどの絵の中で出て来るから、フェルメールのアトリエで常備していた小道具だと思われる。 この絵は、その衣装の色彩を有効に利用している。この絵は、暗い背景から女の上半身が浮き上がるように描かれているのだが、その際にこの衣装の色が、明暗のコントラストを自然に発揮するための有効な道具となっているのである。 小道具といえば、女性が座っている椅子もそのひとつと思える。この椅子の背もたれの上には、飾りがついているが、それは「赤い帽子の女」、「フルートを持つ女」で出てくるライオンの頭部をあしらった飾り物によく似ている。 女性は、右手にガチョウの羽のペンを持っているが、ペン先を動かすでもなく、手を休めてこちら側を向いている。テーブルの上には、黄色いリボンのついた真珠の首飾りや、宝石箱のようなものが置いてある。この真珠の首飾りは、「真珠の首飾りの女」のなかで、モデルの女性が首にかけようとしていたものだ。 これは、女性の顔の部分を拡大したもの。頭にいつくか見える白いものは、髪飾りと思われる。耳には真珠のイアリングをつけているが、両耳についているのが見えるは、この絵の女性だけだ。(カンヴァスに油彩 45×39.9cm ワシントン、ナショナル・ギャラリー) |
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