壺齋散人の 美術批評
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岩窟の聖母:レオナルド・ダ・ヴィンチの祭壇画




レオナルド・ダ・ヴィンチは、30歳になった頃(1482年頃)フィレンツェを去ってミラノに赴いた。詳しい動機はわかっていないが、ミラノの支配者スフォルツァ公に自分の軍事技術を売り込むのが目的だったとも言われる。結局ダ・ヴィンチはスフォルツァ公に召抱えられることはなかった。その彼がミラノで最初に完成させた絵が、「岩窟の聖母」といわれるこの作品である。

この絵は、ミラノのフランチェスコ教会の依頼で作られた。その教会の祭壇を飾る何枚かの絵の一つとしてである。祭壇の背後の壁にはニッチ(壁龕)があって、そこに木彫りの礼拝像が安置されていたが、この絵はそのニッチを覆い隠すようにして飾られた。そして一年のうちで何回かその像の公開にあわせてこの祭壇画がはずされたという。したがってこの絵は、祭壇の一部を飾る可動式の絵として製作されたわけである。

岩窟の入口を思われるところに、聖母子と幼児のヨハネおよび天使の合計4人がいる。中央のマリアは、右手で幼児ヨハネの方に手をかけ、左手をキリストの頭上にかざしている。右端の天使はヨハネの守護天使ウリエルと思われるが、彼女は左手でキリストを支え、右手の指先でヨハネを指している。

ヨハネはキリストに向かって手を合わせ、それにキリストが右手を上げながら応えている。聖母マリアとウリエルの視線はいずれもキリストのほうを向いている。という具合で、この絵では登場人物たちの視線がそれぞれつながりを保ちつつ展開されている。その視線の動きが、この絵に不思議な躍動感をもたらしている。(板に油彩 199×122cm ルーヴル美術館)





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