壺齋散人の 美術批評 |
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森の中の散歩:アンリ・ルソーの世界 |
「森の中の散歩(La Promenade dans la Foret)」は、「カーニバルの夕べ」とほぼ同じ頃に描かれたと思われる。こちらは昼間の森の中を歩く一人の婦人をモチーフにしている。モデルは妻のクレマンス、舞台はクレマンスの実家があったサン・ジェルマン・アン・レイだとされる。 クレマンスとは1869年に結婚した。ルソーが26歳、クレマンスは19歳だった。このクレマンスをルソーは深く愛していた。その愛情は、彼の残した作品からも伝わって来る。クレマンスは、心のやさしい女性だったようだ。生活力のない夫に、大した不平をいわずに仕え、五人の子を産んだ。クレマンスは1888年に死んだのだったが、そのときに生き残ったのは二人の子どもだけだった。さらに大人になれたのは、娘のジュリアだけだった。そのジュリアをルソーは、弟におしつけて育てさせたのだった。 この絵を「カーニバルの夕べ」と比較すると、多少の相違を指摘できる。「カーニバル」の枯れ木に代わって、葉をつけた枝が描かれていることはおくとして、色彩の使い方に大きな違いがある。「カーニバル」のほうは寒色だけで描かれていて全体に冷たい印象が強いのに対して、こちらは人物の衣装や森のところどころに暖色をつかい、そのため画面が全体として暖かいイメージになっている。 そんなこともあって、この絵を、「カーニバル」より数年後のものだと推定する見解もある。もしかしたら、クレマンスの死後に、クレマンスを偲んで描いたのかもしれない。 (1886年頃? カンバスに油彩 70×60㎝ チューリッヒ美術館) |
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