壺齋散人の美術批評
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コート・ダジュールの風景:ボナールの風景画




ボナールの晩年の風景画は、次第に抽象的になっていく。そのことは前にも指摘したが、「コート・ダジュールの風景(Paysage de la Côte d'Azur)」と題されたこの絵は、抽象化の度合いが一段進んだもの。コートダジュールの海は青一色で表現され、前景の樹木群は、それぞれ色の塊として表現されている。そこに調和が指摘できるとすれば、それは青とグリーンを主体にして、寒色系でまとめられていることであろう。

これはおそらく、ル・カネの家から眺めた実景だろうと思われる。だがその実景が忠実に再現されているわけではない。だからといって、実景には意味がなく、空想をもとに描いてもよいということにはならない。実際の感覚を離れたところでは、視覚の芸術は成り立たないのだ。

ボナールは元来、風景画に人を加えるのを好んだ。だいたい、マルトをモデルに使って、人影を風景に添えたものだ。この絵には、人間が出てこない。人間は肉感を伴うから、抽象的な絵画には不要ということか。

(1943年 カンバスに油彩 個人蔵)



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