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スペインの歌手:マネ





マネはスペインの絵、とくにベラスケスが気に入って、スペイン風に描くことをめざすことから始めた。その最初の成果が「スペインの歌手」である。マネはこの絵を1861年のサロンに出展し、佳作の評価を受けた。それまで落選の連続という憂き目にあってきたマネとしては、最初の成功だった。マネはこれをばねにして羽ばたこうと目指したが、その後はサロンの評価に見放された。

この絵を見ると、フランドルの画風、とりわけフランス・ハルスの影響も感じられる。事実マネ自身、マドリードの巨匠たちやオランダの画家ハルスを思い浮かべながらこの絵を描いたと言っていた。

ハルスらフランドルの画家たちの特徴は、暗い背景の中から人物をくっきりと浮かび上がらせるような描き方だが、その特徴がこの絵にも認められる。

文学者のテオフィル・ゴーティエは、この絵にスペインの影響を強く見てとった。この絵の中のギタリストを、ベラスケスなら好意的に迎えるだろうし、ゴヤならギタリストが右手でもっている紙切れに何が書かれているかを読むために明かりを求めようとするだろうと言っている。

実際にはマネはスペインを訪れたことはなかった。彼がスペインに旅行してマドリードに飾られた絵を見るのは1865年のことだ。

(1860年 カンバスに油彩 147.3×114.3㎝ ニューヨーク、メトロポリタン美術館)




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