壺齋散人の 美術批評 |
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思春期:ムンクの不安 |
「思春期と題したこの絵を、ムンクは1895年に公開したが、たちまち厳しい批判にさらされた。批判はスキャンダルに発展し、ムンクはノルウェーの批評界から、集中攻撃を浴びせられた。少女の裸体を描くというのは、当時のノルウェーでは、恥ずべき猥褻な行為であり、頽廃の極みだったのだ。後にムンクの作品は、ナチスによって「頽廃芸術」の烙印を押されたが、その主な理由がこの作品にあった。 ベッドに尻を乗せて座った少女の全身像が、こちら(観客側)を向いている。両腕を膝の上で交差させることで、恥じらいを表現しているが、その目には恥じらいの色は見られない。むしろ自信に満ちた表情である。全身のプロポーションは、少女らしく不均一だ。手足は細くて異常に長いし、ふくらみ始めた胸は、首のすぐ近くに位置している。 少女の背後に影が伸びているが、これは影と言うより、全く違った別の物体を思わせる。というより、彼女の霊魂が物質の形をとって、現われているような印象を与える。これは、影の丸い先端がボリュームいっぱいに黒々と描かれる一方、少女の身体との境目がややぼやかされていることも影響しているようだ。 ベッドの横の線と、少女の縦の線を組み合わせることで構図の安定を図っているのは、「声」と同じである。 これは、少女の上半身の部分を拡大したもの。大きな目が印象的だ。この大きな目と比べると、顔は不釣合いなほど小さい。顔の小ささは体全体との比例でも際立っており、この少女は十頭身以上のプロポーションに見える。 (1914年 カンヴァスに油彩 141×110cm オスロ国立美術館) |
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