壺齋散人の美術批評
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ガソリン・スタンド:ホッパーの世界




ホッパーは、自然と文明の境界のような眺めを描くのが好きだった。「ガソリン・スタンド(Gas)」と題するこの作品も、その一例だ。ガソリン・スタンドは、この絵が描かれた1940年には文明の象徴のようなものだった。それが自然そのものである森林に接してたっている。その森林は、樹木の個別性を感じさせず、鬱蒼とした緑の塊として描かれている。そのことで、人工を加えない原始的な自然を表現したつもりだろう。

このガソリンスタンドは、当然のことながら道路沿いにたっているのだが、その道路というのが、車の通りそうもないほど、荒れているのである。道端には雑草が生え放題だし、路面そのものも手入れされているようには見えない。こんなところでガソリンスタンドの経営が成り立つかと心配になるほどだ。

黄昏時らしいことは、画面右手から差し込んでくる人工の光の具合から、また、店じまいをしているらしい男の仕草から伝わってくる。こんなことからも、このスタンドが繁盛していないことがわかる。

道路脇に立っているポールには、モービル石油のロゴが描かれている。そんなところに、ホッパーの写真的な写実性を見る見方もある。

(1940年 カンバスに油彩 66.7×102.2㎝ ニューヨーク、現代美術館)



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