壺齋散人の美術批評
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辻馬車の馬:ボナールの暗い画面




1890年代半ば以降のボナールは、画面が暗くなるとともに、構図も平板になる。平板な構図で暗い画面の絵というのは、迫力を感じさせない。じっさい、この時期のボナールは、ナビ派の仲間と比べても精彩がなかった。

「辻馬車の馬(Le cheval de fiacre)」と題されたこの作品は、この時期のボナールを象徴するようなもの。全体に暗い画面の中に、これまた暗く塗りつぶされた馬と人間が描かれている。馬はともかく、人間は輪郭も定かならぬほど曖昧である。

背景には街並みが描かれ、これがかろうじて明るさを感じさせるが、存在感はない。ただそこに横たわっているに過ぎない。その街並みの手前の幅の広い道路を、いま辻馬車が通り過ぎようとするところをスナップショット的にとらえたということだろうか。

(1895年 板に油彩 30×40㎝ ワシントン、ナショナル・ギャラリー)



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