壺齋散人の 美術批評 |
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石の切除手術:ボスの世界 |
ボスは民衆の愚かしさを面白おかしく描いた。民衆の愚かさを見つめるボスの視線は、軽蔑のまなざしというより憐憫のまなざしであり、時には暖かささえ感じさせる。この絵「石の切除手術」も、民衆の愚かな偏見を面白おかしく描いたものだ。 ボスの時代には、「阿呆の石を額から取り除けば間抜けが治る」と信じられていた。この絵はその迷信を描いたものだ。 肥満した男が椅子に括りつけられ、いかさま医者が彼の額に穴をあけている。すると穴からチューリップのような花が飛び出す。チューリップはどういうわけか、間抜けのシンボルなのだ。テーブルの上にはもう一つのチューリップが置かれているから、これ以前に手術をうけた者が別にいたことを暗示している。 医師がいかさま師であることは、彼の服装が暗示している。まず肩にある紋章が外科医組合のものではない。頭にかぶった漏斗は酒屋が使うものだ。腰には空の壺をぶら下げているが、それは空虚さをシンボライズしているのだろう。手術の様子を僧侶と尼僧が眺めているが、尼僧の方は何ともうつろな目つきをしている。頭に乗せているのは聖書だろう。僧侶のほうは男に何か語りかけているが、それはあるいは励ましであるのかもしれない。 しかし励まされるまでもなく、男は自ら進んでこの手術を受けているのだ。上下にわたって書かれた文字「先生、石を早く取り除いてください、わたしの名はルベルト・ダスです」がそれを裏付けている。 背後にはネーデルラントの風景が展開している。ニーメーヘンの町ではないかとする研究者もいる。 円形は地球ではないかとする研究者もいるが、そうではなく鏡だという者もいる。鏡だとすれば、この絵が教訓を描いたとする見解を強化することとなろう。 なお作風からして、この絵は比較的初期に描かれたと推測されるが、現存するものは、ボスの死後に弟子たちによってコピーされた可能性が高い。 (板に油彩、48×35cm、マドリード、プラド美術館) |
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