壺齋散人の 美術批評
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刃物の化け物:ボス「最後の審判」



「最後の審判」には刃物の化け物が出てくる。これは中央パネルの右下の部分だが、爬虫類のグロテスクな胴体から巨大なナイフの頭が突き出ている。その上の方には、小屋の屋根からのこぎりが突き出ている。この小屋はどうやら、化け物たちの休憩所のようである。またナイフの右手には、駕籠から脚の生えた化け物が、三日月形の鎌を振りかざしている。

ボスが暮らしていたス・ヘルトーヘンボスは豊かな商業都市であったが、手工業も栄え、特に刃物の製造でヨーロッパ中に知られていたという。ボスは自分の絵の中に町の特産物である刃物を描き入れることで、宣伝効果をねらったのであろうか。

ナイフの刃先にいる男が、恐怖の表情で刃物の方を見つめている。切断されるのを恐れているのだろうか。彼の隣の男は、すでに頭を失っているが、それはどうやらヘビの仕業らしい。

左手では鉄面皮の怪物が鉈のようなものを振り上げている。怪物に取り押さえられている男の頭を切り下すつもりなのかもしれない。

下部にいるドラゴンのような怪物は、自分の首に包丁を突き刺したままだ。そのドラゴンが樽の中を覗き込んでいるが、そこには男の顔が塩漬けにされている。

一風かわった見ものは、脚の生えた卵だ。脚のほかに頭の一部が覗いてみえるが、トカゲのような顔つきをしている。ボスはこのあと、「愉悦の楽園」の中で、木の足を生やし、人間の顔をつけた卵の化け物を登場させることとなるが、この絵に出てくる卵の化け物はその先駆者というわけだろうか。

化け物と人間たちの背後には洪水が押し寄せてきている。すでに洪水に呑み込まれておぼれている人間もいる。なにもかもがじめじめとして陰惨だ。実に見る人の気を滅入らせるような雰囲気がいっぱいの画だ。





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