壺齋散人の 美術批評 |
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聖ヒエロニムス:ボスの世界 |
聖ヒエロニムスを描いたこの絵は、「三隠者のトリプティクス」の中央部分である。左翼には聖アントニウスが女の誘惑と戦う姿が、右翼には聖エギディウスが祈りを捧げる姿が描かれ、この中央部分では、異教の寺院の廃墟で、キリストの十字架像を見つめる聖ヒエロニムスが描かれている。 聖ヒエロニムスは四世紀から五世紀への変わり目に生きた人であり、聖書をヘブライ語からラテン語に翻訳した人として、尊敬を集めている。普通は赤い法衣を着て瞑想する姿や、ライオンと同居する場面などが描かれるが、この絵はそうした伝統的な描き方とは異なっているのが特徴だ。 この廃墟がどこであるかについては、諸説ある。荒廃しきった光景は、廃墟を表すとともに、精神の荒廃をも示唆しているようだ。廃墟が水に浸されているところは、地獄のイメージに重なっているし、画面手前で、絶望的な戦いを繰り広げている二匹の獣は、精神の荒廃をシンボライズしているとも考えられる。 聖ヒエロニムスは、キリスト像に手を差し伸べて見つめている。足元が動きを感じさせるから、恐らくキリスト像に向かって走ってきたのであろう。異教の廃墟の中で一条の光明を見出したという意味だろうか。 キリストを囲む廃墟の壁には、絵が描かれレリーフが刻まれている。レリーフは、ホロフェルネスの首をはねるユーディットだとする説もある。 背景には、グロテスクな物体が描かれ、さらにその先には荒涼たる原野が広がっている。また左手前の長めのフラスコのような器は、錬金術に使われるフラスコを思わせる。 (パネルに油彩、86.5×60cm、ヴェネチア、ドゥカーレ宮殿) |
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