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梅毒で死につつあるモル:ホガースの版画シリーズ「娼婦の遍歴」 |
ウィリアム・ホガースの版画シリーズ「娼婦の遍歴(A Harlot's Progress)」第五作目は、「梅毒で死につつあるモル(Moll dying of syphilis)」と題する。モルが職業病の梅毒にかかり、重症化していまにもい死につつある様子を描く。死に直面する人にしては、ベッドに寝かせられているわけでもなく、椅子に腰かけたままのぞんざいな扱われ方である。 左手にいる二人の男は、どちらも医者で、治療方針をめぐって議論している。左側の黒い鬘の医師は出血療法を主張し、右手の白い髪の医師はカッピング(コップを肌に張り付ける方法)を主張している。モルの体を支えている女は、モルの介護人であろう。医師たちの議論をののしっているように見える。 画面左端の女は、下宿の家主だろう。モルのトランクをかき回して、金になりそうなものを物色している。部屋代のかわりというのだろう。 画面右端には、子供がストーヴの前に座って、頭を掻きむしっている。虱やノミが巣くっているのだろう。子供には、母親の危険な状態がよくわかっていないようである。全体として乱雑な部屋の様子は、瀕死の人間がいる場所にはふさわしくない。 |
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