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装飾的身体(Figure décorative sur fond ornemental):マティス、色彩の魔術





「装飾的身体(Figure décorative sur fond ornemental)」は、マティスの代表作の一つである。彼はこの作品を、20年代に多作していたオダリスク像の延長として描いたのだろう。1926年のサロン・デ・チュイルリに出展したところ、大きな反響を呼んだ。その反響には好意的なものと、非難がましいものとの両方があったが、この作品がマティスにとって新たなスタイルを予感させるという評価では一致していた。

それまでのマティスとの連続性に注目するものは、画面全体を覆う装飾的な要素に、マティスの装飾的な絵画様式の完成を認めた。画面全体が装飾の氾濫である。人体さえもが、この絵の中の装飾的な要素としての意味を持たされている。大体、人体を「装飾的人体」として捉える見方は、装飾好みのフランスの文化的伝統にあっても斬新なものだった。

装飾が主体であるから、絵画のそのほかの要素、たとえば構図における遠近法だとか、フォルムの扱い方だとか、色彩の調和だとかいったものはことごとく無視されている。装飾品として、人の目を射るような奇抜感と、美術作品としての統一感がある程度感じられればよい、そんな従来の常識を破るような型破りなコンセプトがこの絵には認められる。

モチーフである人体は、彫刻を思わせるようなボリューム感があるが、フォルムという点では現実的なものとはいえない。背中と脚とのあいだを結ぶ線が直角になっており、そのあおりで尻から太股にかけてが極度にデフォルメされている。人体のデフォルメは、それ自体では、絵画にとって異質なものではない。この絵が異質な印象を与えたのは、人体が全体としてはかなり具象的に描かれながら、その一部が過度にデフォルメされているために、異常な不調和を感じさせるからだ。

背後の壁と、床の絨毯の模様も、どこで断絶しているのかわからないまま、渾然として一体化している。まるで装飾が氾濫した空間の中にモデルの女が遊泳しているかのような印象を与える。

装飾の模様に幾何学的なパターンが見られるのは、マティスがフランス人であるあかしだろう。彼はイスラム芸術を始め非ヨーロッパ的なものに大きな関心を向けたが、深層のところではフランス人であり続けた。

なお、壁の中心部分に鏡がかけられているのが見えるが、この鏡も装飾的なパターンのように見えて、鏡としての実在感を主張していない。そこは人体が、装飾に解消され、人体としての実在感に乏しいのと同じであろう。

(1925年 キャンバスに油彩 131×98cm パリ、現代美術館)





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