壺齋散人の 美術批評 |
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青の婦人(La dame en bleu):マティス、色彩の魔術 |
「バラ色の裸婦」のモデルに起用したリディア・デレクトルスカヤを、マティスは非常に気に入り、続いて「青の婦人(La dame en bleu)」と題する比較的大型の絵のモデルにも使った。彼女のことをマティスは「アマゾネス」と呼んだが、それは彼女の大柄な体格と常軌を逸したプロポーションを評してのことだった。この絵から連想されるように、リディアは十頭身以上の巨躯の女性だったようだ。 マティスのこの絵は、アングルの「マダム・モアテシエの肖像」を下敷きにしているとされる。アングルの肖像画は、きらびやかに着飾り、右手を頬に寄せて気取ったポーズの若い女性の上半身を描いたものだが、マティスはそれを下敷きにして、同じようなポーズをとったリディアの全身を描いた。 絵を見てまず目に付くのは、リディアの並外れたプロポーションだ。座った姿勢で十頭身以上あるから、真直ぐ立つともっと巨体に見えるだろう。そのリディアの身体のほとんどは衣装の中に隠れているが、表面に出た部分でもっとも注目を引くのは首だ。この首がただでさえ大きい上に、下部のほうが膨らんでいるのは、いかにも勇猛なアマゾネスを連想させる。アラゴンはこの絵を見て度肝を抜かれ、こんな大きな女に抱かれたいと願ったそうだ。 リディアの座った椅子は見事な左右対称を示している。椅子の背後にある黒い部分も左右対称の幾何学的形態を示しているが、これは一体何なのだろう。床の延長のようでもあるし、壁の一部分のようでもある。もっとも背景をもっぱら装飾の観点から描いたマティスにとっては、そんなことはどうでもよいのかも知れぬ。 リディアの顔は、やや曖昧な部分がある。たとえば目の描き方などは、ちょっとゾンザイではないかと思われるほどだ。首飾りも、地の肌の色とあまり差別化されていない。ロザリオを持った右手にいたっては、指の形が現実のものとは思えないほどデフォルメされている。 リディアの顔の後ろに見えるのは、ミモザの花束だ。この絵は別名を「大きな青いドレスとミモザ」ともいい、ミモザの花が一つのチャームポイントになっている。 (1937年 キャンバスに油彩 93×73.6cm 個人蔵) |
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